こんにちは、物欲紳士です。
鬱陶しい梅雨の季節がやってきた…。
今回は、そんな昨今の季節にピッタリな革靴(?)についてレビューしたい。
今回紹介するのは、三陽山長の防水友二郎。
防水性が完璧なビジネスシューズをお探しの方
コスパの良い雨用シューズが欲しい方
靴はちゃんとしたブランドの製品を履きたい方
まずはブランド(三陽山長)と、防水友二郎の概要について見ていきたい!
ブランド(三陽山長)と、防水友二郎について
三陽山長について
三陽山長(さんようやまちょう)は、日本のアパレルメーカー・三陽商会が展開する靴ブランド。
2001年創業。
「欧米の高級靴に対し、廉価な製品」という位置づけ・イメージだった日本の革靴業界の中で、「欧州(特に英国)製品に伍する靴」を造ることを目指して創立された、職人気質なブランドだ。
三陽山長を語る上でのキーワードは、「欧州の高級皮革 x 日本の職人技」、「木型へのこだわり」の2点だ。
◆欧州の高級皮革 x 日本の職人技
製品・年次によって材料の調達先は変遷しているけど、基本的に革材は欧米の高級靴ブランドと同等の、欧州産カーフを使用している。
さらに正確さ・緻密さで定評のある、日本人の職人の技が加わっている。
「欧州産皮革&日本のモノづくりのコラボ」は、近年は靴以外の多くの国内のバッグ・小物メーカーなども提案している。
言ってみれば「見慣れた構図」ではある。
だけど三陽山長が創業した20年前はそれほど一般的ではなくて、ある意味で先駆けだったと言えるのかもしれない。
三陽山長の成功があって、数々のフォロワーを生み出している構造だと言えそうだ。
(別記事(下記)でレビューした鞄ブランド・エルゴポックなども、その一例…)
◆木型へのこだわり
2点めの特徴と言えるのが「日本人向けのモダンなフィッティングの木型」。
三陽山長が創業した20年前は、現在と比べても昔っぽい「緩いフィット感の木型」の製品が多かった。
買い手側も、(一部の靴マニアを除いて)それを支持する傾向があった。
「木型のフィット感の緩さ」が、マニアをして「靴は欧米ブランドに限る」と感じさせてしまう原因だった。
日本の靴ブランドから、高級品が出ない(出しても売れない)要因の1つにもなっていたわけだ。
三陽山長はこの状況を逆手に取り「日本人(アジア人)の足型に合わせた木型」を開発。
「欧米に追いつくだけでなく、追い抜く」ことを目指した。
この商品づくりは成功して、他の国産製靴メーカーの木型もフィット性を重視するようになる、転機の1つになった。
20年前と比較すると、現在のデパートの靴売場には低価格ながら立体的でフィット感を重視した、国産ブランドの靴で溢れている。
この流れの中心には、三陽山長がいたと言っても問題はないように思う。
◆三陽山長の看板商品
三陽山長の看板商品をざっくり紹介していきたい。
ブランドの「顔」、ストレートチップの友二郎。
英国某ブランドの名品でお馴染み、「スワンネック」と呼ばれるシューレース部のステッチが特徴。
やっぱり重要な黒のストレートチップ、良い靴を1足ほしいですねえ。
カジュアル感のあるUチップの勘三郎。
これもやはり某ブランドの名品で有名な「スキンステッチ」と呼ばれる、革材の表裏ではなく革内部にステッチを通す、高度な縫製が見事。
カジュアル感がありつつも職人技が感じられる、非常に贅沢な1足。
以上のように、定番品も欧州の名作の意匠を取り入れた品が多くて、デザイン上のオリジナリティの面では弱めという一面も垣間見える。
「外観・仕様で他ブランドと差異化する」のではなく、敢えて名品に寄せるというのは製造技術への絶対的な自信があるからこそなせる選択なのかもしれない。
防水友二郎について
そんな日本を代表する高級靴ブランド、三陽山長製品の中でも異色の存在となるのが、今回レビューする防水友二郎。
2万円程度と安価なお値段が特徴となるこの製品は、確か昨年(2020年)に販売開始された意欲作。
驚くなかれ、甲革は本革ではなくフェイクレザー。
なおかつストレートチップ的な外観をしつつ、外装全体が一体成型(ステッチもフェイク)という驚きの仕様だ。
まさに梅雨にピッタリだと思える本品、筆者は今年に購入したばかり。
実際に購入してみて感じた良い点・イマイチな点について、下記で書いていきたい!
防水友二郎の良い点と、イマイチな点
さてさて、そんな驚きのドレスシューズ、三陽山長の防水友二郎。
実際に購入してみて感じた良い点とイマイチな点は、下記の通り。
「高級カーフレザー」にしか見えない甲革の質感
「トラッドのド真ん中」の端正なスタイル
防水性は完璧
本家の革靴シリーズとのフィット感&フォルムの相違
革靴的な「ソリッド感」のない履き心地
以下で、それぞれについて説明していきたい!
防水友二郎の良い点
「高級なカーフレザー」にしか見えない、アッパー(甲革)の質感
防水友二郎のアッパー(甲革)は、実際にはPVC(ポリ塩化ビニル:合皮)素材。
だけど外見的には、どう見ても「革靴用の高級革」にしか見えない。
このリアル感の鍵は、(勝手な推測だけど)靴を成形するための金型の加工技術にありそうだ。
恐らくだけど、リアルな高級革の「表面の細かい繊維模様」を、金型の表面上に忠実に再現しているのだろう。
このためには、金型上に微細な彫り込みを加える必要がある。
素材だけでなく、おそらく金型加工面でも先端の技術を使っているのだろう。
実際、三陽山長の製品を例に取ると、(当然だけど)上のような10万円以上の最上級ラインは、防水友二郎のフェイクレザーを超えた威厳・質感がある。
…だけど、5〜10万円クラスの上級ラインになると、率直に言うと個体によっては、甲革の質感にアラが見えるのも事実。
「…だったら2万円のフェイクレザーの方がいいんじゃね?」とも思えるのだ(苦笑)。
この辺りは「コストダウンのために安い材料を使っている!」というより、近年の需要の高まりで三陽山長レベルのブランドでも「高品質な革を大量に確保するのが難しい」という実情があるのかもしれない。
色々と書いたけど、通気性やエイジングなどの面で、ホンモノの皮革の価値が色褪せるわけではない。
けれども、単純に「価格に対する質感のコスパ」で見れば、本品がピカイチなのは間違いない。
革製品には付きものの個体差も、ほぼないはずだしね…。
なお、合皮なのでケア方法も当然異なっていて、専用のお手入れ用品も用意されている。
この辺りは当然ながら抜かりがなく、非常にありがたいし面白い。
「トラッドのド真ん中」の端正なスタイル
第2に面白いのは、本家・友二郎の特徴とも言える意匠を忠実に再現した、端正なスタイル。
実際にはすべてフェイクだけれど、トゥキャップのステッチや「スワンネック」と呼ばれる意匠的なステッチ、ヒール部分の継ぎ目などは、忠実に再現されている。
…実際のところは、トゥキャップはステッチレスで、ヒールはワンピースの方が上級仕様。
三陽山長にもこの仕様のモデル(上写真の匠一郎)があり、今回の製法ならばノーコストでグレードアップが可能。
敢えてそうしない理由は、名作・友二郎へのオマージュということなのだろう。
「再現性に対するこだわり」を感じる点は、個人的にはグッと来てしまうポイントだ。
防水性は完璧
ここ日本では「ウォータープルーフ」「防水」を謳ったビジネスシューズは数多い。
某ブランドの「ゴ◯テッ◯ス靴」なんかが代表格。
けれど、ここまで完璧な防水性と(ケアも含めた)雨天に対する安心感を持ったドレスシューズが、これまで存在しなかったのは、ほぼ間違いない。
何しろ、靴底もアッパーと一体成型されているので、外装部はステッチレス。
ステッチがないということは「穴がない」ので、高い防水性が期待できるわけだ。
その分、通常の革靴と比較すると靴底の修理には制限がある。
基本的にはオールソールはせず、靴底を補修しながら履く靴だけど、履き潰す覚悟でOKな価格設定とも言える。
防水性に劣る革靴を雨天で使用すると、寿命を縮める結果となる。
お気に入りの1足を、永く履くためにも、ぜひ手元に置いておきたい1足だと言えるだろう。
イマイチな点
本家の友二郎とのフィット感&フォルムの相違
まず注意したい点としては、本家の革靴ラインとは外観上のフォルム・フィット感の面で相違がある。
筆者自身は革靴の友二郎を保有していないので、同じ木型(R2010:近年の三陽山長の定番木型)のモデル、琴之介(上写真右側)と比較してみる。
トゥ形状は似ているけど、ボールジョイント部にかけての幅、特に外側の膨らみが大きめ。
全体的に防水モデルの方が幅広めな木型となっているのが分かる。
違いを作っている理由は、ちょっと不明。
個人的には三陽山長のR2010のフォルムは好みなので、やや残念だと感じる。
理由の1つめとして考えられるのが、布製のライニング。
吸湿性(ムレ防止)を考えた使用だと思うけれど、ライニングが分厚い点を考慮した可能性がある。
あとはコストかな。
先述した「高級皮革を模した生産設備」は高価そうなので、「サイズを増やせない→少ないサイズで多くの足型に合わせるため、サイズを大きめに設定した」可能性もありそう。
(筆者の勝手な妄想だけど…。)
蛇足だけど、三陽山長さんの製品紹介ページには、
素材特性上、革製のシューズと比較しPVC(塩化ビニル樹脂)は着用による足馴染みが殆ど発生しません。そのため、このレインシューズは幅がやや広く、甲が高く設定されています。
と記載されている。
筆者の読解力不足かもしれないけど、上の文章はやや論理性に欠ける説明に思える。
営業トークとして、「足馴染みが発生しないので、馴染みを考慮せずにフィット感を選んでください」と書かれていれば理解できる。
が、「元のサイズを大きくしてしまう」のは説明として主客転倒していて、ややスッキリしない。
「設備のコスト面を考慮して、サイズ数を減らした展開になっている」のが実情で、上の説明は若干の言い訳が入っている(?)と考えた方が、しっくり来るような気はする。
履き心地は、革靴的な「ソリッド感」はない
外観的には「上質な革靴」と言ってしまって良い防水友二郎。
だけど、履き心地の面では革靴的な「ソリッドな感触」はない。
スニーカーにも近いソフト感、悪く言えば「フニャフニャ感」のある履き心地だ。
この点は、捉え方によっては「気張らずに履ける」良さもあって、「その方が良い」という方もおられると思う(むしろ多数派?)。
だけど、外観から「革靴的な着用感」を想像すると、拍子抜けすることになる。
外観と着用感のギャップには、慣れが必要だ。
まとめ:「ブランドらしさ」の可能性を、垣間見る1足
今回は、梅雨場・秋口の雨天シーズンに嬉しい1足、三陽山長のレインシューズ「防水友二郎」についてレビューした。
「高級カーフレザー」にしか見えない甲革の質感
「トラッドのド真ん中」の端正なスタイル
防水性は完璧
本家の革靴シリーズとのフィット感&フォルムの相違
革靴的な「ソリッド感」はない履き心地
総合評価 ★★★★☆
デザイン ★★★★☆
革靴らしい安定した佇まい。本家とのフォルムの差異は気になる
機能性 ★★★★★
雨天時に心強い、完璧な耐水性
着用感 ★★★☆☆
慣れが必要な「革靴らしからぬ」ソフト感
価格 ★★★★☆
製品の質感とブランドを考えると優秀なコスパ
耐久性 特になし
*購入直後のため
その他 ★★★★★
今後の「ブランドの方向性」を垣間見る1足!
冒頭、「デザイン面でのオリジナリティは弱め」と書いたけど、三陽山長は「ドレススニーカー」のシリーズも、定番で展開している。
「本格靴のスタイルと、実用性を融合する」方向性を提案し続けてきたブランドでもある。
背景には、靴作り以外にも様々な技術を持つ、三陽商会という母体の存在があるのだろう。
そう考えると「高級靴をブランドイメージに据えつつ、伝統に捉われずにレインシューズも作る」というのは、欧米の高級靴ブランドには真似できないこと。
「防水シリーズ」を作り続け、海外ブランドとの違いを打ち出して「国外にも打って出る!」なんてことになれば、なかなか面白いのかもしれないと感じた。
最もその際には、木型のサイズ構成・フィット感は改良して「オリジナルの木型の良さ」をより再現してほしいとは感じる。(あとは茶靴もね…)
今後の製品改良にも期待したいし、(履き潰す靴でもあるし)アップグレードされればまた、新製品を買い求めることになるのだろう…
ブーツの中では最もドレス寄りなサイドゴアタイプの防水誠十郎も、2021年からラインナップに加わった。
これもほしいですよ…。
(★おまけ)購入品の製品データ
ブランド 三陽山長
製品名 防水友二郎
素材 (甲材)ポリ塩化ビニル (PVC)
(底材)ラバー
製法 スラッシュセメント式
木型 R2010RS
色 黒
サイズ 6 1/2
製造国 中国
価格 19,800円-(税込)
購入年月 2021年春
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